湿った夏の始まりに、僕らはaikoの夢を見ていた。

湿った夏の始まりに、僕らはaikoの夢を見ていた。
自室に飾ってあるaikoのポスター

ようやく涼しくなってきて、夏がとうとう終わりを迎えようとしている。

しかし“平成最後”はたぶんまだまだ続くのだろう。

昨今はどこを見渡しても、“平成最後”というフレーズのオンパレード。

インフレを起こして、もはや最後のありがたみが薄れてきているように感じる。

そんなことはさておき、みなさんは“平成最後”の夏をどうお過ごしだろうか。

僕の“平成最後”の夏は、aikoから始まった。

『湿った夏の始まり』

aikoがデビュー20周年の年に出したオリジナルアルバムだ。

よくある初回盤のDVDもなし、サブスクリプションでの配信もなしという強気のリリース形態。

しかしそれでいい。それがaikoだから。

彼女は20周年だからと言って特別なことは何も意識していない、というようなことをインタビューで語っていた。

その言葉どおり、他の人気アーティストだったらアリーナツアーやベストアルバム発売などで盛大に祝うはずのアニバーサリーイヤーを、aikoは全13曲のオリジナルアルバム1枚と、いつもより少しだけ長い45本のツアーをもって迎えたのだ。

20周年だからと言って、特別お祭り騒ぎをしないのは、きっと19周年や21周年と同様にaikoにとっては“同じ1年”という感覚があるからだと思う。

僕はaikoの平等感覚が好きだ。

ライブでお馴染みの掛け声「男子~!女子~!」と同じテンションで、aikoは「そうでない人~!」と叫ぶ。

最前列の人にも最後列の人にも同じように会話するチャンスを与え、同じ目線でコミュニケーションをとっていく。

僕が初めてaikoを観たのは、およそ3年前に開催された茅ヶ崎のビーチで行われる不定期のフリーライブ“Love Like Aloha”だった。(今夏は残念ながら行けず)

そのときaikoは、後ろのほうの人にはもちろん、遠くの建物の上階から眺めている人にも声をかけていたのだ。

そんな姿がとても印象的で、今も心に残っている。

だからきっと、aikoは“平成最後”なんて言葉も軽々しくは使わないはずだ。(もうすでに使っていたら目を瞑ってくれ)

最後だからって急に“平成”を多用しするのは、不自然じゃないか。

aikoならきっとそう思っていると思う。

だって梅雨を“湿った夏”と言ってしまうような人だ。

aikoはツアーの初日にこんなことを言っていた。

“始まったら、終わるんやな”、と。(細かいニュアンスは勘弁)

始まりがあれば終わりがある。

aikoはそのことをわかっている。

彼女は“湿った夏”をマイナスなワードとしてつけたのか、プラスなワードとしてつけたのかはわからない。

しかしどちらにせよ始まれば、終わる。

だからちゃんと“始まり”とタイトルにつけたのだろう。

“湿った夏”をしっかりと終わらせるために。

そして2018年9月も半ば。

湿った夏はとうに過ぎて、酷暑、残暑と通過して僕らは半袖にするか長袖にするか迷う季節に突入した。

季節は“湿った夏”を当たり前のように終わらせたのだ。

しかし僕らはどうだ。

僕らの“湿った夏”は、本当に終わったのだろうか。

確かにアルバムのリリースをもって僕らは『湿った夏の始まり』を告げた。

しかし季節は変わろうと、僕らはまだ“湿った夏”に終わりを告げられていない。

まだaikoが作り出した“湿った夏”をさまよっているような気がする。

それはまるで夢のような。

しかしそれは現実の対義語としての“夢”ではない。

現実と平行線上に存在しているような“夢”。

巷で流行っているワードの中からなら、パラレルワールドという言葉が一番近いかもしれない。

夢なのに夢じゃない気がするのは、きっとaikoの歌が、今回のアルバムはとくに、人や生活に密着しているからではないだろうか。

僕らはまだaikoが始めた“湿った夏”から抜けられずにいる。

抜けられないまま、時にジメっと、時にピタっと肌に吸い付くような夢をaikoが見させてくれているのだ。

aikoの創った湿った夏で、格好いいあなたは恋をして、ハナガサイタ道をドライブして、予告なしに宇宙までドライブをして、息をする。

そして上から見下ろすのは花火だけじゃなくて、綺麗な夜空だったりする。

ときには勝手な愛に振り回されて、全てあたしのせいかもという不安がよぎる。

だからあたしは、あなたの飲むドリンクのちょうど赤いストローの真ん中あたりを見つめながら、その不安を告白する。

なぜならあなたは、あたしがどんなに暗いことを言っても“うん。”と言って微笑んでくれるから。

そんな愛しい湿った夏は、いつ終わるのかわからない。

でも1つだけハッキリしていること。

それは自分の心が湿った夏をまだ終わらせたくないという事実だ。

 

今日も何気なくつけたラジオから声が聴こえる。

“君にいいことがあるように”、と。

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