僕には高校生の頃から好きな人がいた。
今振り返ると、あれは初恋だったんだと思う。
携帯のパスワードも、その人の名前から連想できる数字にしていた。
それでも高校を卒業する最後の日まで、想いを伝えることはなかった。
そのうち忘れるだろうと思っていた。
しかし大学生になってからも、駅の改札、反対側のホーム、近所のスーパーと、彼の姿を探してしまう自分がいた。
それから数年が経ち、未練が薄まりかけた2020年。
全世界で流行したパンデミックが、僕に初恋の味を思い出させた。
“誰にも会えない、会っちゃいけない。”
自粛期間中、思い出すのはあの人のことだった。
しかし、どんなに“会いたい”と強く願っても、もう連絡する手段はない。
知らぬ間に、7年も引きずっていたのだ。
こらえきれずに、ネットであの人の名前を検索した夜もあった。
数枚だけ載っていた大学時代の写真。
記憶の中のあの人と全く変わらぬ姿が、そこにはあった。
今頃は、就職でもしているのだろうか。
パートナーはできたのだろうか。
もしかしたら、結婚して子どもができているのかもしれない。
しかしどんなにおめでたいことがあっても、あの人の連絡網に僕の名前は載っていないだろう。
僕にできることは、遠くからあの人に想いを馳せることだけだった。
もしも願いが叶うなら、もう一度会って、こう伝えたい。
「あなたは、僕の初恋でした。7年間引きずっていたけど、さすがにひと段落つけることにしたよ。僕に恋の苦しさとトキメキを教えてくれてありがとう。どうか元気で。幸せでいてね。」
しばらくは忘れられないかもしれない。
もしかしたらこの先もう、まともな恋はできないかもしれない。
それでも僕は、未練を断ち切る第一歩として、携帯のパスワードを変えた。
僕は今、この気持ちをすべて過去形で書けていることが誇らしい。
時間が過ぎるってすごいことだった。
この文章を書き終えた頃、僕は少し前を向いていたんだから。
※当文章は、雑誌『Quick Japan Vol.154』掲載の「aikoエッセイ大賞」に応募したテキストを、加筆・修正したものです。